「レ・ミゼラブル」を見て

視聴したのは映画のDVD。(2012年)
舞台の初見は小学生の頃。
児童向けに書かれた原作を読んでから観劇に行ったと思う。
この作品、登場人物がひとりひとり魅力的なんですよね。
エポニーヌ、ジャベール、ジャン・バルジャン、マリウス、コゼット……。(好きな順)
初見の舞台はジャベール警部が一番印象的だった。
役者さん誰だったんだろう。
ジャン・バルジャンを追い詰めてきたジャベールが信念と人情の狭間で自死を選ぶ場面、小説で読んだ時も衝撃的だったけど舞台で観た時のさらなる衝撃は 大人になった今でも忘れられない。
たしかジャベールの独唱?独白?→投身自殺の演出だった。
ジャベールが橋の上で激しい葛藤をしている映像が今も頭の奥に残ってる。

 

物語はジャン・バルジャン(罪状:パンの窃盗)が仮釈放になるが前科のために社会的信用を失い、貧困をしのぐために教会から銀食器を盗むことに始まる。

ところが聖職者(神父さま?牧師さま?)が「これも持っていきなさい」と銀の燭台を渡したことでジャン・バルジャンは改心する。

前科を隠して市長をつとめるようになった。

たぶんだけど、ミッションスクールに憧れたのはレミゼのこの場面の影響なんだと思う。

市長になったジャン・バルジャンは紆余曲折あって恵まれない市民のファンテーヌを看取ることになり、彼女の娘コゼットを養女とすることに決める。(ジャン・バルジャン、本当に成長したな…)

ファンテーヌの独唱「夢やぶれて」もこの作品の魅力のひとつ。

https://m.youtube.com/watch?v=JzDNDhV8Yqg

ファンテーヌから「コゼットは意地悪なテナルディエ夫妻の宿屋で働かされている」と聞き、ジャン・バルジャンはコゼットのもとへ急ぐ。

コゼットの「こ〜の雲〜のう〜え〜に〜♪」大好き。

https://m.youtube.com/watch?v=JG7sszWLpfk

小学生の頃劇場で聴いたのを覚えてる。

子供の頃は完全にコゼットに感情移入していたのでジャン・バルジャンの登場には本当に安心できた。

パパはもとからいなくて、大好きなママも死んでしまって心細い中、こんな優しい人が欲しかった人形を買ってくれて手をつないで歩いてくれて「パパの代わりになるよ」って言ってくれたら本当に救われるだろうなって。

映画ではあまり触れられてないけど、コゼットは宿屋で働く間、宿屋を営むテナルディエ夫妻とその娘エポニーヌにいじめられていた。

(エポニーヌは毎週幼馴染のマリウスと教会に行くのだけど、コゼットのことは省いたりとか)

 

時が経ち、テナルディエ一家は没落してしまう。

貧しくなったエポニーヌとは反対に、コゼットは裕福になっている。

ジャン・バルジャンとコゼットは貧しい人々にパンを恵むんだけど、なんとそうしていたらエポニーヌと再会。

この時のエポニーヌの屈辱ったらないだろう。

しかも悪いことに、エポニーヌの積年の片思い相手である幼馴染のマリウスがコゼットの優しさと美貌に恋してしまうのだった。

私がコゼットよりもエポニーヌを愛する理由はここに始まる。

たいていの人間はコゼットではなくエポニーヌではないだろうか。

自分が富める時に弱者をいじめる弱さを持つ。

そしてその弱さのために手痛いしっぺ返しをくらう。天罰的な。

私自身も「逆境でも健気にがんばれるコゼット」と「ちょっと実家が太いからって調子に乗るエポニーヌ」ならどちらが近いかと言われたら間違いなく後者だ。

そりゃコゼットでありたいよ。

私だってコゼットでありたいよ。

でもエポニーヌなんだ。

人としての弱さ・醜さを憎みながらも捨てられずに抱えて苦しみながら生きるエポニーヌだ。

エポニーヌも「コゼットに生まれることができたらよかった」と強く願ったに違いない。

マリウスはエポニーヌの積年の恋心に気付かずコゼットへの思いを深めていく。

 

フランス革命ってどうしてこうも舞台映えするんですかね。

革命推進派のマリウスたちと制圧を試みるジャベールの両視点で革命が描かれるところが上手い。

革命を阻止しようとするジャベールは民衆側にスパイとして入り込む。

危険な任務をすすんでやるところが芯の強いジャベールらしい。

ところが民衆にすぐにばれて囚われてしまう。

王族や貴族が民衆を虐げる旧制度を解体しようと革命を起こす民衆の中にはマリウスもいる。

兵士らの砲撃を受けたマリウスは自爆を装い爆弾を抱えて敵に突っ込む。

敵兵はそれに気付きマリウスを射殺しようとするが、エポニーヌが身体を張ってマリウスを守る。

マリウスの代わりにエポニーヌは銃弾を受けた。

エポニーヌの死に際してマリウスは初めてエポニーヌの気持ちを知る。

エポニーヌのこの報われなさ。

私が愛してあげるからね…という気持ちになる。

 

ジャン・バルジャンはエポニーヌがマリウスと相思相愛であることを知り「宝物を失うことになる」と恐れるが革命で命を落とすかもしれないマリウスの元へ急ぐ。

そこで囚われのジャベールに再会するのだった。

ジャベールはジャン・バルジャンに殺されると思っがジャン・バルジャンはジャベールを逃してやる。

ジャン・バルジャンを悪党と決めつけ逮捕のために長年追い回していたジャベールだが、これでジャン・バルジャンの懐の深さを知ってしまった。

皮肉にも、ジャン・バルジャンを監視していたジャベールが一番、ジャン・バルジャンの人格者たる資質を理解していたのではないか。

 

その後革命軍は窮地に追い込まれる。

ガブローシュ(子役)の演技上手すぎた。

この子日本で言う芦田愛菜ちゃん?

え、芦田愛菜ちゃんって子役時代に銃弾で撃たれて死ぬ演技できた?

ガブローシュ、銃弾がかすった時と致命傷を負った時の演技両方やってたけどどっちもリアルだった。

死んだふりも上手すぎる。

なにこの褒め方。でもすごいから本当に。

 

怪我を負ったマリウスを助けたいジャン・バルジャンはマリウスを背負って下水道を逃げる。

逃げた先にいたのはジャベールだった。

ジャン・バルジャンはマリウスだけでも助けるように懇願するがジャベールは銃口を向ける。

ところが引き金を引けなかった。

私、エポニーヌと同じくらいジャベールが好き。

正義感の強い警察官のジャベールは罪人ジャン・バルジャンの逮捕の機会を追い続けていた。

ところがそのジャン・バルジャンは一度ジャベールの命を救っている。

ジャベールは命の恩人であるジャン・バルジャンを撃つことができなかった。

冷徹なほどに正義を追求するジャベールの中に渦巻く人間くささが溢れるシーン。

しかしジャン・バルジャンに救われたことで「ジャベール」は死んでしまったのだと思い詰めたジャベールは身投げしてしまう。

正義の人であるが故に捨てきれない人間としての善性が苦しい。

 

生き残ったマリウスはコゼットと再会。

二人は結婚することになる。

マリウスはジャン・バルジャンに一緒に住もうと提案するが、ジャン・バルジャンは前科をマリウスに告白してコゼットには黙って旅立ってしまう。

マリウスは結婚式の会場でテナルディエから「ジャン・バルジャンが革命で死んだ若者を背負って下水道を歩いているのを見た」と聞き、瀕死の自分を助けてくれたのはジャン・バルジャンだったのだと知る。

マリウスはコゼットを連れてジャン・バルジャンがいるという修道院に向かう。

修道院ではジャン・バルジャンが瀕死。

ファンテーヌの幻覚を見ている。

ファンテーヌは「コゼットを愛してくれてありがとう」と微笑んでいる。

そこに駆けつけるコゼットとマリウス。

2人はジャン・バルジャンと最期の時を過ごす。

ファンテーヌはジャン・バルジャンの命を天に導いていく。

ジャン・バルジャンが死んだからか外の世界には革命で死んだはずの友人たちが勢揃い。

あのレミゼといえばという定番の革命の歌を歌っている。

https://m.youtube.com/watch?v=1q82twrdr0U

なんかこのへんは小説の方が泣けた気がする。

でも歌と演出が素敵なので文句ない。

 

何を表現するか、どう表現するか。

創作において大事な二つの、両方を高い水準に磨き上げた作品だと思った。

特に映画やミュージカルは「どう表現するか」の工夫の幅が広いのがいいな。

でもこんな傑作を見ても一部「ここは小説の方がいいな」と思わせてくるからユゴーすごい。