さっそく見に行ったので感想。
本当によかった。
村上春樹の世界観っぽかった。
良さがわかるのは私が普段読書をするからかもしれない。
エンタメに慣れすぎてる人には深読みできないだろうから賛否は分かれそう。
以下ネタバレ。
完結にいえば「行きて帰し物語」。
母を失ったことで心を閉ざしてしまった少年眞人(マヒト)が異世界を旅することで人に心を開く力を取り戻す成長物語。
火事で母を亡くしたことで心に深い傷を負ったマヒト。
ある日、父が再婚して田舎の屋敷に引っ越すことになる。
再婚相手は母の妹夏子(ナツコ)で、ナツコはマヒトの弟を妊娠している。
ナツコが母に似ているからこそ、父がナツコを本当に愛しているからこそ、ナツコが妊娠を喜んでいるからこそ、マヒトは優しいナツコを母として受け入れられない。
マヒトの苦しみは鋭利に研ぎ澄まされて攻撃性を帯び、それは自分自身に、そして屋敷に現れるアオサギに向けられる。
マヒトは悪意を持って自分を傷つけ、アオサギを殺そうとするのだった。
ナツコはもちろんマヒトに対して穏やかでいられない。
大事な姉の息子をこんなにも大事に思っているのに気持ちが伝わらない。
自分はマヒトの母にはなれないのかもしれないと苦しんでいる。
そんなある日、ナツコが失踪してしまう。
マヒトはナツコが屋敷の森に消えていったのを偶然見ていたため、屋敷のお手伝いの1人キリコと共に森へ入っていく。
ここ、秀逸なのが、マヒトは読みかけの本を残して部屋を去るところ。
「頭の狂った大叔父が読みかけの本を残して失踪した」話をたどるので(何が起こるのだろう…)とぞっとする。
森の奥には古い塔があった。
それはアオサギが「おいでませ」と誘っていた塔である。
アオサギがいうには、マヒトの母は実は死んでおらず、塔の中で会えるという。
マヒトはキリコと共に塔の中の異世界へと踏み出す。
異世界に来てから、マヒトはどれだけ屋敷のみんなに大事に見守られていたかを知る。
キリコだってちゃんとマヒトの味方だったのだ。
ある夜、マヒトは人間の赤ちゃんになるというワラワラが天に昇っていくのを見る。
そのワラワラを食べるのはペリカン。
ペリカンを殺すのは炎使いのヒミ。
時間がぐちゃぐちゃに混ざったこのファンタジーな異世界には独特の食物連鎖(?)があるらしい。
ヒミはペリカンもワラワラもろとも殺してしまう。
しかし一部生き残ったワラワラは天に昇っていく。
キリコは「ヒミがいなければ全てのワラワラが犠牲になったからこれでいい」という。
ペリカンは「地獄だ」と語る。
ファンタジーな異世界のはずなのに、残酷な部分は現実と同じなのだ。
この異世界でインコは人間を食べるらしい。
鳥を殺すために刃物を研いでいたマヒトは、鳥から刃物を向けられることになる。
ここにも現実的な真理があると思う。
マヒトのことを救うのはヒミ。
ヒミはマヒトの母の少女時代の姿をしている。
母を失い苦しんでいたマヒトは「死んでしまいたい」と思っていたのではないか。
しかしヒミはマヒトを産むために元の世界に戻るのである。
マヒトは「そんなことをしたら炎で燃えて死んでしまう」とヒミに告げる。
マヒトは自分が産まれないことで母を守りたかった。
しかしそれでもヒミはマヒトを産みたいと答える。
これはマヒトが生まれ直す物語だ。
母の愛に触れたマヒトは元の世界に戻り、異世界でみんなを信用できたように、今度は現実世界でみんなと人間関係を築いていこうと決めるのだった。
マヒトの母(ヒミ)は死んでいなかったのかもしれない。
炎を通して異世界に戻ってきたのではないか。
少女の姿だったのは、ヒミが少女時代に一度異世界を旅したからだろう。
時間がぐちゃぐちゃになった世界。
元の世界に戻ったヒミとキリコはマヒトのことを覚えていない。
しかしヒミもキリコも未来でマヒトと再会することになる。
それをマヒトだけが知っている。
マヒトもいつかはこの世界に帰ってくることになるかもしれない、と思ったけど、世界は完全に壊れてしまったんだった。
マヒトはもう逃げることなく現実を生きていくしかない。
でもマヒトにとっての現実は、異世界に行く前と比べて、希望のある世界になっただろう。
2度目を見て思ったこと。
キリコは異世界の住人だったけれど、ヒミと共に現実世界にきて、そのまま現実世界の住人になったのかな。
マヒトの母は炎を通して異世界と現実世界を、過去と未来をループしているんだと思う。
マヒトに「助けて」と言ったのは「ループを解いて」という意味だったと解釈した。
良い作品だった。
結局4回見た。