「風の谷のナウシカ」を見て

ジブリ鑑賞2作目、風の谷のナウシカ

やっぱり子どもの頃大好きで何度も見たけど。

こんなおぞましい話だっけ?

 

ナウシカが救われるのは最終盤だけでそれまでが不穏すぎる。

これを好んで見る子ども何?

でも私が特殊な子どもだったわけじゃないはず。

なんでこの残酷な話が子どもを魅了するんだろう。

 

以下、子どもの頃に見た時の印象と大人になってから見た時の印象の違い。

腐海について

子どもの頃見てた腐海と大人になってから見る腐海が全然違ったことにまずびっくりした。

大人になってみれば腐海は「別世界のもの」として表現されていると感じる。

でも子どもの頃は「この世界の延長上にあるもの」だと思っていた。

こういう世界が本当にあるものだと自然に受け入れていた。

物語に没入する力は大人より子どもの方が圧倒的に優れているんだけど、

(小学生の頃は本を読むとその世界に入っていけた。

大人になった今はあの読み方ができない)

それは今生きているこの世界に対しての理解があまりにも不足しているために起こることだったらしい。

無知ゆえに可能な没入。

けど、見方としてはある意味大人より正しい。

「別世界」としての腐海を造形するにあたって、作り手は現実世界に存在する植物について膨大な資料を参照しているんじゃないかと思う。

その事実の上に作った舞台だろうから「全くの別世界」と捉えるより「現実世界を下敷きにした別世界」の方が近いと思う。

子どもの頃の自分の目を思い出してはっとさせられた。

「綺麗な砂と水で育てば瘴気を出さない」という設定を理解できたのは小学校高学年くらいだった気がする。

人間が土壌や水を汚染するからいけないんだと、それって現実世界にも通じる話だなと思った記憶がよみがえった。

腐海は人間が汚染した大地を浄化しているという設定をちゃんと理解できたのは今回が初。

腐海の底には石化した大樹が砂になって降り注ぐ。

あまりにも美しく幻想的な設定。

腐海の秘密を知ったナウシカは砂の上に横たわる。

少年アスベルはナウシカに「泣いているの?」と聞く。(無粋だな)

ナウシカは砂に頬を預けて両目に涙を光らせる。「嬉しいの」。

腐海の植物を見つめ愛してきたナウシカが発見した希望が胸にせまる。

 

ナウシカの受難の始まり

子どもの頃見た時のナウシカは「大人の仲間」だった。

私はナウシカを「姫ねえさま」と呼ぶ子どもたちの目線でこの作品を見ていた。

それが小学校入学どころか大学まで卒業して●年経ってしまうと

「えっ?ナウシカってこんな子どもだったの?」と思うから恐ろしい。

こんな幼い子どもにこんなにも重い試練が降りかかっていいのかと序盤から唖然。

父は殺されるし激昂して大人何人か殺すしユパ様の腕を刺すし「これ以上犠牲を出したくないから」と侵略者に服従することを風の谷のみんなに説得。

その直前に巨大な船が生活圏に墜落してて自分と同年代の女の子の死を看取ってるんですよ。

どんな世界で生きてるんですか?

瀕死の少女を看取る直前にナウシカは女の子の服のボタンを手早く外すんだけど、途中で手を止め顔がアップになる。(歪めている)

ナウシカは少女の服のボタンをとめ直していく。

幼い頃このシーンが本当に謎でママに「なんでボタンつけ直してるの?」って聞いたら

(ここから数行ちょっとグロいので注意)

特にためらいもなく

「飛行機が墜落した衝撃でお腹が切れて内臓が飛び出ちゃってたからこれはちょっともう助からないと思ったんだよ〜」

と言われて衝撃受けた。

確かに下腹部あたり膨らんでるんですよね。

これが飛び出た内臓たちか…と思った。

血塗られてないのは配慮なのかな。

でもこれは言われないとわからなかったかも。

よく解釈できたな。

 

ナウシカの受難の深刻化

侵略してきたトルメキア軍の人質になるナウシカ

子どもの頃は「旅立ち」だと思ってた。

いやまあそうなんだけどこんな後ろ向きな旅立ちだったとは…。

人質に取られた船でアスベルから襲撃を受ける。

襲撃をやめさせたくて体張った結果、ナウシカは無事でアスベルの船は墜落。

どこまで絶望させる気?

(→生きててよかったよ。いい奴だし)

ナウシカがトルメキア殿下を見捨てず助けてあげるシーンは「これが見たかった!」というヒーロー感がある。

(ヒロインだけど。細かいことはいい。)

でも殿下は改心しない。最後まで嫌な奴のまま。

子どもの頃は「えー?なんで?助けてもらったんだから『ありがとう』でしょ?」だったけど

大人になってみるとこのリアリティはなかなか好ましい。

 

④最後の受難とやっと報われたナウシカ

風の谷を王蟲に襲わせる計画があると知ったナウシカ

王蟲の暴走を止めなければならない。

この計画、進めているのはアスベルの同胞なのだった。(!?)

子どもの頃に衝撃的だったのはアスベルたちの集団自決未遂。

どういう場面なのかわからなくてママに「この人たち何しようとしてるの?」って聞いたら

「集団自決だよ〜」

「なあにそれ?」

「敵に殺されるくらいならみんなで自爆して敵もろとも殺そうとしてるところ」

って言われたことを今でも覚えてる。

未就学児に何教えてるんだ。

爆弾に火をつけようとしてる人が「誇りを見せてやる」みたいなこと言ってて怖かった。

現実にある話だという感じがする。

 

ナウシカの看取った少女が「積荷を燃やして」と繰り返していたけど、

積荷の正体は巨神兵だったということに気付いたのは今回。

人間の形をしているのがゾッとする。

風の谷を襲う王蟲を焼き払うのに使われた。

表現的に、巨神兵原子力のメタファーなのかなと思った。

とすると「巨神兵は7日で世界を焼き払った」というのは第二次世界大戦のことなのかな。

さすがに深読みしすぎ?

結局、王蟲を鎮めたのは巨神兵の戦力ではなく、ナウシカの優しさだった。

最後は序盤にちらっと出てきた伝説の伏線回収となる。

見事な構成だった。

 

⑤終わり方がやっぱり文学的

腐海の底でナウシカが置いてきたマスク。

その隣に新しい植物の芽が生えている。

祝福的な希望を象徴する一コマ。

 

★蛇足

ナウシカが巨大なハエのような蟲を沈めるために、紐のついた小さな筒を振り回すシーンがある。

良いシーンなんだけど笑いが止まらなかった。

というのも私の妹は紐付きの小物を手にするたび、

私に向かって「大丈夫。森にお帰り」と言って振り回すからだ。

小物を振り回す間は私があげるべき鳴き声を自分で代行して天井に小物を振り上げBGMまで感動的に再現してくる。

私はあんな巨大なハエの役を押し付けられていたのか…と思った。

ちなみに子どもの頃の話ではない。

現在進行形でやられている。

 

もののけ姫」が「人間対自然」なら、

風の谷のナウシカ」は「人間対人間」の話なのだと思う。

その争いの結果大地を汚してしまったために、自然という第三勢力が牙を剥くようになったのではないか。

そしてこれは「別世界の話」ではなく「この世界の延長上にある」物語だ。(怖い)