バレエシャンブルウエスト「LUNA」をみて

初のバレエ鑑賞。

まず「LUNA」のあらすじ確認。

①月にて

月の宮廷人とうさぎたちが登場。

彼らは「銀百合のしずく」を摂って生きている。

そこに登場するかぐや姫

苛立っていて銀百合を引きちぎり人々を蹴散らす。

帝(かぐや姫の父)に対しても反抗的。

そこで帝はかぐや姫を地球へ送ることにした。

帝はうさぎに短剣をたくし、かぐや姫を見守るようにいいつけて地球に送った。


②地球にて

かぐやは眠る幼児を見つけて触れる。

幼児は目覚め、代わりにかぐやが眠る。

うさぎたちは村人に変身。

竹取の翁と嫗(人形!)が竹藪で赤子を見つけ、育てる。

それがかぐやになった。

ある日かぐやのいる村に帝が通る。

2人は惹かれ合う。

かぐやの噂を聞いた4人の皇子たちが求婚してくる。

かぐやは「龍の持つ宝を持つ者と結婚する」と宣言。


③地球にて

龍の宝を獲得しようと求婚者たちは戦う。

しかし龍の手下に倒される。

一方、帝もかぐやに求婚。

かぐやは帝にも龍の話をする。

帝も龍の宝を狙うことに。

龍と戦う帝は劣勢になるが、かぐやから受け取った短剣で勝利。

(この短剣はかぐやの父がうさぎに与えたもの。うさぎがかぐやに短剣を渡した)

龍は宝を残して消える。

龍を操っていたのは…月の帝(かぐやの父)?

帝は竜の宝と共に銀百合の花を手に入れ、かぐやに銀百合の花を贈る。

かぐやはびっくり。

父の気配を感じ、月に帰る時期の近いことを悟る。


④地球→月へ

かぐやと帝の華やかな結婚式。

そこへかぐやの父が現れる。

かぐやは月に帰ってしまう。

かぐやを惜しむ帝と帝を惜しむかぐやの心情表現がみどころ。


いきなり俗説から入るんだ!?とちょっとびっくりした。

かぐや姫はそもそもなぜ地球にきたか?という問題は永く議論されている。

仮説のひとつが「月で罪を犯したから流刑された」だ。(月人にとって地球は流刑地という説)

どんな罪の償いのために地球に流されたのだろう?と考えて、私が初めに思ったのは「殺人だろうな~」だったけど、LUNAでは「花を引きちぎったり、人を蹴ったりしたから」という可愛い罪状だった。

ごめんなさい。

 

私には漢文の現代語訳をノートに記すという渋すぎな趣味があるため(これで日曜の朝起きてからの4時間が消失する)わかるんだけど、中国の思想って日本の物語に強く影響してる。

月に人がいる、宮がある、うさぎがいる、って発想は中国や日本だからある発想な気がした。

日本最古の物語である「竹取物語」をバレエで表現するって試みがまず興味深い。

 

バレエって初めて観るので観る前に図書館で1ヶ月間くらい調べたけど、イタリアで生まれてフランスで育ってロシアで大成したらしい。

銀行業で成功したイタリアの大財閥メディチ家のお嬢様(かの有名なカトリーヌ・ド・メディシス)がフランスに嫁入りした時にバレエはフランスに渡った。

バレエ好きなルイ14世が王立のバレエ学校を作って(中略)いろいろあってロシアでバレエ文化は花開いた。

つまり「LUNA」は東洋的物語を西洋的技術で表現する舞台なわけだ。

観たい。

…いつも通りに前置き長いな。

ということで舞台の感想へ。

 

これ導入が秀逸で、まず大阪交響楽団のみなさんの挨拶から始まる。

明るいところで演奏を聴き始めてクラシックコンサートに来たような感覚に。

照明が落とされ始めると舞台が近くなっていくような錯覚を抱く。

舞台が近付いてくるのに合わせて音楽もBGMになっていく。

物語の世界に引き込んでいく手法が巧みだと思った。

 

まず好きだったのは長耳(土方一生さん)と赤目(吉本真由美さん)。

2人組のうさぎ。

序盤から「リフトってこうなの!?」とびっくりした。

リフトって男性が女性を持ち上げるとは聞いてたけど、持ち上げられた赤目が両脚そろえて爪先を天に向けるとは思わなかったよね。

そしてこの技を支えた長耳、他の場面での踊りはとてもチャーミング。

特に第1幕3景のかぐやが帝に出会う直前、村人たち(実際はうさぎが変身した姿)のお祭り。

え?この人女性だっけ?と思って何度もオペラグラス覗くことになった。

パワフルなバレリーナとチャーミングなバレリーノの魅力的な組み合わせだった。


地球の帝(逸見智彦さん)も月の帝(佐藤崇有貴さん)もとても威厳があった。

バレエダンサーを見て「威厳がある」って感じることある?

台詞も歌もないのにそう感じさせる表現がすごい。

飛んだり回ったり持ち上げたり、バレリーノは力強く踊るものだとばかり思っていたけれど、想像してたよりしなやかで「これが男性のバレエなんだ!?」と思った。

かっこいいより美しいとか綺麗が似合う。

威厳あるのに。なんで?


龍のかしら(藤島光太さん)に拍手を送る時には会場に一体感があった。

踊り方はそれは安定感あってよし楽しませてもらうぞとみていられる。

帝との戦いの場面の直前、下手に透明の糸が落ちてきて、演出かな?と途中まで思ってたんだけど下手で龍を演じるバレリーナさんが転ばないように気をつけているのがわかって、どうやらミスらしいなと思った。

龍のかしらのソロの踊りに入っても糸の塊はそのままあって、これ大丈夫かな?と思う空気が劇場に漂ってた。(喋ってるわけでもないのに他のお客さんと心通じ合わせることあるよね)

踊り終わったあと龍のかしらが機転をきかせて回収してました。

拍手!!ここ気持ちよかった。一体感。

龍を演じたバレリーナのみなさんも(鈴木愛澄さん、崎田奈月さん、阿部美雪さん、西村まなつさん、太田奈々さん)めちゃくちゃかっこよかった。


龍を倒そうとする4人の皇子たちもそれぞれ個性的で良い。

剣の皇子(山本帆介さん)は日本刀を振り回す姿がかっこいい。

日本刀振り回すバレリーノっているんだ。

これのために殺陣の稽古とか受けたのかな。

刀の扱い方が上手い。

弓の皇子(早川侑希さん)は矢を持たず弓を弾くだけなのがシュールでよかった。

シュールなのになんかかっこいい。

弦を弾くのに作る腕の形が筋肉を強調するから?

客席からどう見えるかよく計算されてると思った。

力の皇子(バトムンク・チンゾリグさん)は岩を持ち上げる。

かぐやに求婚するにあたって岩を持ってきて力自慢をするというツッコミどころのあるキャラクターなのがおいしかった。

台詞なしでコミカルな表現をする。

思わず笑う。


そして初めて見たプリマ、かぐや姫(柴田実樹さん)。

何から書けばいいのかわからない。

美しかった。

ポアントのつま先で移動する優雅さとか1回の舞台でこんな何度もリフトされるものなんだとかびっくりするところはたくさんあったんだけど、一番好きだったのはやっぱり表現。

特に最後の月に帰ってしまうところ。

おじいさんとおばあさん(八王子車人形!)に寄り添い別れを惜しむ場面は「さよならが寂しい」より「育ててくれてありがとう」が強い表情でした。

でも帝との別れは「さよならが寂しい」が強かった。

同じ別れでも別れの対象が違えば違う表現になるということをよく考えて演技に反映しているのがわかる。

台詞なしでやるのがすごい。

それにこたえるように帝も悲痛な表情をしてた。

バレエは踊りの「動」と歌や台詞のない「静」を一体とした芸術なんだと思った。


後語り。

竹取物語かぐや姫が無理な試練を提示するのは「誰にも気がないから」なんですよね。

ここの前提をひっくりかえす(=帝に惹かれる)となると、そもそもみんなに試練を与える理由がなくなってしまう。

皇子たちのことは適当にあしらってさっさと帝と結婚すればいい。

…みたいなツッコミどころはどの舞台にもあるものだし特別欠点とは思わなかった。

恋愛は舞台映え抜群のテーマなのでこれを強調できるなら多少展開に辻褄の合わない部分があってもそれが逆に「味」っぽくなる。

小説だとそうもいかないのですごい。

舞台の魔力。あぁ好き。

くるみ割り人形もチケット取れたから楽しみ。